このサイトでは2002年まで国立名古屋病院でアトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法にたずさわっていた深谷元継医師の著書からその一部を紹介しています。

アトピー性皮膚炎とステロイド離脱  から。<抜粋>                           PDF  English

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まえがき

 アトピー性皮膚炎の「脱ステロイド療法」は、それを経験したことのない皮膚科医にとっては、にわかには受け入れがたいものだと思います。

 本書は、ステロイド外用剤を連用していたアトピー性皮膚炎患者が、離脱後に強い再燃(リバウンド)を生じた後、寛解していく経過を、経時的なカラー写真を用いることによって視覚的に解説したものです。

 離脱にともなう再燃(リバウンド)の皮疹には、いくつかの特徴があり、皮疹の推移にはいくつかのタイプがあります。本書は脱ステロイドの経験の少ない皮膚科医にそれらの情報を伝えることを目的として著しました。

 アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤治療というのは、短期的には有効です。しかし、これを長期にわたって続けますと、中止後に強い再燃(リバウンド)が起きることが多いです。

 アトピー性皮膚炎の治療において、ステロイド外用剤をどのように位置付けるべきかを考え直すための材料として、皮膚科専門医の目で冷静に検討していただけることを著者は心から願っています。


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タイプ1 潮紅局面型

 境界不明瞭な潮紅あるいは潮紅局面。重症の場合には茹で上がったような紅皮症になることもあるが、皮疹要素としては、色素沈着・痒疹・苔癬化などは乏しく単純。
 紅皮症化した場合には、手首・足首において境界明瞭な潮紅局面を形成する。
 ステロイド離脱後かなりの期間を経た後の再燃時や、ステロイドをさほど連用していなかった乳幼児にも見られるので、アトピー性皮膚炎本来の皮疹経過に近いと考えられる。
 数ヶ月から年余にわたるものは、滲出性紅斑様の潮紅局面の形をとる。

1
( 前 / 1週間後 / 2ヵ月後 )
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 次に示す症例もこのタイプ(潮紅局面型)だが、ステロイド外用歴は長くなかったので、乳幼児に一般的に起こる自然治癒経過である可能性が高い。
 数ヶ月にわたる滲出性紅斑様の発赤した潮紅局面が持続した後、皮疹が消退している。


2
( 前 / 2週間後 / 2ヵ月後 / 6ヶ月後
  7ヵ月後 / 1.5年後 / 2年後 )
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 このようにタイプ1は、ステロイドをさほど連用していなかった乳幼児や、離脱後かなりの期間を経た後の再燃の皮疹としてもよく見られ、消毒や環境抗原・食物抗原・ストレスなど悪化要因の排除が奏功することが多い。



タイプ2 紅斑融合型

 比較的境界明瞭な小斑状皮疹が融合して、しばしば紅皮症化した後に消退する。融合前の皮疹は赤色調優位(紅斑)のことも、茶褐色調優位のこともある。
 前者は蕁麻疹様・麻疹様で、後者は次に述べるタイプ3(地図状拡散型)の皮疹に似ている。
 タイプ1と同じくステロイド離脱直後に特徴的な皮疹型ではなく、ステロイド中止後の再燃が治まった後、数ヶ月を経た後に再燃する場合にも同様の皮疹を生じうる(しかし離脱後十分な期間を経たあとの再燃の皮疹は直後のそれに比べて弱いことが多い)。

3
( 前 / 2ヵ月後 / 7ヵ月後 / 12ヶ月後 )
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 このタイプは潮紅(局面)型と同じく、離脱に伴う特異的な皮疹ではなく、アトピー性皮膚炎そのものの再燃と位置付けた方が良いと考えられる。
 ただし、強調しておかなければならないのは、再燃してもその前の悪化よりは軽く、かつ短期で治まることが多く、ステロイド離脱直後は皮疹が増幅されていた可能性が高い。その意味でステロイド皮膚症の一つと位置付けて良いと思う。

 皮疹は顔面に始まり、顔面がおさまった後に、胸・上肢へと移っていくことが多い。
 紅皮症化した事例ではさらに手関節から手背、さらに下肢へと拡がり、下肢では強い浮腫をきたすこともある。



タイプ3 地図状拡散型

 不規則で比較的大きな地図状皮疹がゆっくりと拡大しつつ消退していくタイプ。
 当初から発赤とともに茶褐色の色素沈着を伴う局面は、拡大するにつれて境界不明瞭となり、より色素沈着優位、または色素沈着そのものとなった後に消退する。
 消毒に比較的良く反応する。紅皮症化はしない。時に強い手湿疹を伴うことがある。

4
( 前 / 1週間後 / 2週間後 / 1ヵ月後 / 4ヶ月後 )
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 不規則地図状で紅斑というよりも茶褐色調の強い病変が、ゆっくりと拡大しながら消退していく。この型はしばしば頚部から始まりゆっくりと拡がりつつ消退する。

 典型的なこのタイプの皮疹は再燃しにくい。再燃する場合にも丘疹やより境界不明瞭な軽度の潮紅局面(より典型的なアトピー性皮膚炎像)の形をとる。

 また、このタイプは何故か時に強い手湿疹を伴う(手掌側まで及ぶ)。膿痂疹様の強い湿疹反応だが、これも同時進行的に、あるいはやや遅れて消退する。

5
( 前 / 1ヵ月後 / 2ヵ月後 / 3ヶ月後 )
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タイプ4 激症型

 離脱後数週から1〜2ヶ月の内に、滲出性の潮紅・痂皮・落屑・色素沈着・掻破痕といった、多彩で激烈な皮疹を生じ、さらに数週から数ヶ月で比較的早く回復してしまうタイプ。
 直前には「ステロイドを塗っても治まらない」丘疹や痒疹が散在することが多いが、タイプ5(痒疹拡散型)との違いは中止後の皮疹の華々しさにある。
 40℃台の発熱が1週間から10日間続くこともある。ピーク時にはほとんどの症例で休職・入院を余儀なくされる。
 全身的症状が激烈なわりに、ステロイド注射などでいったん抑えて徐々に離脱することを勧めても患者本人が拒否することも多い。経過からステロイドの副作用であると患者自身がはっきり自覚できるためと考えられる。

6
( 前 / 2週間後 / 3ヵ月後 / 7ヶ月後 / 13ヶ月後)
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タイプ5 痒疹拡散型

 一見正常そうな皮膚の全身に痒疹が散在し、ステロイド中止とともに紅皮症化する。
 痒疹または痒疹様結節は扁平化しつつ、しばらくは掻破痕様に残る。
 しばしば経過は緩慢で、寛解までに数ヶ月から時に数年を要し、患者にも治療者側にも根気が要る。
 タイプ4(激症型)と同様、ステロイド外用剤からの離脱後に特徴的な皮疹経過である。

7
( 前 / 3ヵ月後 / 7ヵ月後 / 11ヶ月後 / 19ヶ月後)
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アトピー性皮膚炎以外のステロイド皮膚症

 ここで記すものは、アトピー性皮膚炎でのステロイド離脱という本書の趣旨からは外れるかもしれないが、いわゆるステロイド皮膚症という概念を理解する上で必要と考えた症例である。
 ステロイド皮膚症とは、ステロイド外用を長期連用して中止した際、ステロイドの外用を始める前よりも強い(あるいは多彩な)皮膚の増悪を来たしてくるような状態である。
 ステロイド皮膚症は、ステロイド外用中に生じてくる酒さ・ざ瘡・皮膚萎縮といった古典的なステロイド外用剤の副作用とは異なる。外用中は症状がなく中止後に初めて明らかとなるため、治療者側は気が付きにくい。
 ステロイド皮膚症はアトピー性皮膚炎に限った話ではない。逆にアトピー性皮膚炎患者でステロイドを多量に外用していても、特にリバウンドを生じることもなく、すんなりと離脱してしまうケースもある。
 どうも、ステロイド外用剤を連用するとステロイド皮膚症になりやすい一群の人達がいて、たまたまアトピー性皮膚炎患者ではその率が高い、といったことのようである。



1.手湿疹型

 これは現在はあまり問題となっていないが、潜在的にはかなり多いと筆者は考えている。
 ステロイドを中止してリバウンドを生じたので、アトピー素因を疑って血液検査をしてみたらIgE高値やRAST陽性であったということも多い。

8
( 前 / 2ヵ月後 / 3ヵ月後 / 7ヶ月後 )
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   リバウンドは手のみに限局することもあるが、手が治まった頃に腕や肘に湿疹を生じた後に消退することも多い。
 指一本に限局していたステロイド抵抗性の難治性湿疹が、ステロイドの中止とともに拡大し、腕から体へと皮膚炎が拡がって紅皮症となった事例の経験もある。リバウンドはステロイドを外用していなかった部位にも生じる

9
( 前 / 2ヵ月後 / 4ヵ月後 / 6ヶ月後 )
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2.貨幣状湿疹型

 いわゆる難治性の貨幣状湿疹でステロイドを切ってみると拡大しつつ消退しながら治癒してしまうもの。
 タイプ3(地図状拡散型)や手湿疹型に似ている。臨床像は貨幣状湿疹そのものである。


10
 ( 前    /  1ヵ月後 /  2ヶ月後 
   4ヵ月後 /  9ヵ月後 / 14ヶ月後 ) 
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 (ステロイド中止後、2・3のようにリバウンドを生じた後治まった。その後5のように少し再燃したが、ステロイドは外用せず白色ワセリンのみで6のように治まった。)


3.老人性乾皮症型

 経過から、当初老人性乾皮症であったがステロイド外用剤の連用によってステロイド皮膚症に移行したと考えられるケース。
 手湿疹と同じく、潜在的に多く、今後問題となり得る。

11
( 前 / 2ヵ月後 / 6ヵ月後 / 10ヶ月後 )
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4.掌蹠膿疱症型
12
( 前 / 1ヵ月後 / 4ヵ月後 / 5ヶ月後 )
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5.接触皮膚炎様型
13
( 前 / 3週間後 / 5ヵ月後 / 10ヶ月後 )
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